レースを支える裏方のプロフェッショナルたち<br>K-tunes Racingのスタッフ紹介 前編

レースを支える裏方のプロフェッショナルたち
K-tunes Racingのスタッフ紹介 前編

by Koichi Yamaguchi/ February 00, 2026

K-tunes Racingは、SUPER GTを主戦場としながら、インタープロトシリーズ(以下IPS)、GT World Challenge Asia JAPAN CUP(以下GT WCA)など、複数のカテゴリーに参戦している。サーキットで脚光を浴びるのはドライバーだが、その背後では数十名のスタッフがチームを支えている。メカニック、エンジニア、マネージャー、トランスポータードライバー──レース前の準備からレース中のチーム戦略やピット作業、そしてレース後の片付けまで、彼らの仕事は多岐にわたる。今回は、その中から数名のスタッフを取り上げ、日頃は語られることのない、プロフェッショナルたちの仕事に迫る。

勝利という目標の下に集結した多彩な顔ぶれ

週末、サーキットに詰めかけた観客が目にするのは、コース上で繰り広げられる熾烈な戦いだ。しかし、その戦いを支えているのは、決して表舞台に立つことのない数十名のプロフェッショナルたちである。

メカニックは時に深夜までピットでマシンと向き合い、エンジニアはデータの海から最適解を導き出し、マネージャーはチーム全体の動きを統制する。トランスポーターのドライバーは、精密機器の塊であるレーシングマシンを、日本各地のサーキットへと安全に運ぶ。

K-tunes Racingを支えるスタッフは、数十名に及ぶ。彼らはそれぞれが専門性を持ちながら、優勝という一つの目標に向かって有機的に連携する。ドライバーがストレスなくレースに集中できる環境を整えること──それが、彼らに課せられた使命だ。

レースの勝敗を決めるのは、ドライバーのスキルや経験だけではない。チーム全体の総合力が、真の競争力となる。今回、K-tunes Racingを支える一人ひとりのプロフェッショナルたちに光を当てる。

チームを率いる改革者

K-tunes Racing代表 石井貴之

2023年12月よりK-tunes Racingのチーム代表を務める石井貴之。岡山トヨペットで整備士として7年、営業マンとして13年のキャリアを積んだ後、チーム代表に就任した。

レース業界に入ってわずか2年という経歴ながら、彼が担うのはチーム運営の全般だ。サプライヤーやドライバーなどとの契約交渉、SUPER GTのエントラント代表会議への出席、そしてチームの組織体制構築まで、その業務は多岐にわたる。

就任当初、チームはスタッフ間のコミュニケーションが不足するなど、停滞した雰囲気に包まれていた。石井は活気のある人材を招き入れ、対話を重視した組織づくりに着手したという。その結果、現在のチームには明るく前向きな空気が流れ、スタッフ同士の信頼関係も育まれている。

「車両のグラフィックデザインからスタッフのコスチュームまで、チームのブランディングに力を入れることができるのは、末長(一範)オーナーがそこに価値を見出してくれるからです。

もちろん勝つチームであることが大前提ですが、GT300クラスでありながらGT500のチームに勝るとも劣らない人気チームにしたいと考えています。

モータースポーツ全体のファンを増やすことが、K-tunes Racingのファンを増やすことにもつながる。僕自身がレース素人からハマっていった気持ちを、レース活動を通じて、多くの人に伝えていきたいと考えています」

チームの中核を担う技術リーダー

工場長 下江浩晃

K-tunes Racingの技術面を支える中核人材、下江浩晃。1990年生まれの彼は、大学在学中に進路を見つめ直し、自動車整備の専門学校へ進んだ。

岡山トヨペット入社後、ディーラーで4年間メカニックを務めた後、山口トヨペットをルーツに持つレーシングチーム「INGING MOTORSPORTS」に3年間出向し、レーシングカーのメンテナンス技術を一から学んだ。

2020年にK-tunes Racingへ戻り、5年間SUPER GTのチーフメカニックを担当。2025年シーズンはチーフエンジニアとして、マシンのセットアップやレース戦略に携わった。2026年シーズンは工場長として、ファクトリーでの人材育成とノウハウ継承に携わる。

「チーフメカニックは工具を持ってマシンのメンテナンスを担当しますが、エンジニアはパソコンでデータを見ながらセットアップを考える。全く違う仕事でしたが、2025年は一瀬(俊浩)エンジニアのサポートを受けながら、エンジニアという仕事を学べた貴重な1年でした。

開幕戦の岡山で雨に見舞われ、第1スティントをウェットタイヤで引っ張る戦略が6位入賞につながった時、エンジニアの判断がレース展開を大きく左右することを実感しました。来シーズンは工場長として、若いメカニックやGT3マシンの経験が浅いスタッフに、自分が培ってきた技術を継承していきたいと考えています」

現場を支える心強い兄貴

チーフメカニック 山地隼人

1984年生まれ、地元岡山出身の山地隼人は、整備士歴20年を超えるベテランだ。岡山トヨペットでエンジニアリーダー、サービスアドバイザーを経験した後、2024年にK-tunes Racingへ加入した。

現在はSUPER GTとGTWCAに出走する2台のLEXUS RCF GT3のメンテナンスを担当。SUPER GTではドライバーサポート、GT WCAではチーフメカニックを務める。2026年シーズンからはSUPER GTのチーフメカニックを務める。

「市販車でも細心の注意を払いますが、レーシングカーはプロドライバーが乗り、わずかな違いにも即座に反応が返ってくる。求められる精度が全く違うので、より一層慎重にマシンと向き合う必要があります。

チームには元トヨペットで一緒に働いていた仲間が多く、以前よりずっと仕事がしやすくなってきました。レースで勝利した時の喜び、ピット作業が円滑に進んでチーム全員で喜びを分かち合える瞬間に、この仕事のやりがいを感じます。

2026年はSUPER GTのチーフメカニックとして、さらにチームに貢献していきたいと考えています」

多彩な経験を持つベテランメカニック

チーフメカニック 上村啓太

フリーランスのレースメカニックとしてさまざまなチームで経験を積んできた上村啓太。1992年静岡県生まれの彼は、いすゞのトラックディーラーで整備士を5年務めた後、レースの世界へ転身した。

SUPER GT、SUPER耐久、GT WCAなど、フォーミュラを除く幅広いカテゴリーで8年のキャリアを重ね、2023年にK-tunes Racingへ加入。

2025年はSUPER GTのRCF GT3とGT WCAのFerrari 296 GT3、2台のチーフメカニックを兼任したが、2026年はFerrari 296 GT3に注力する。

「K-tunes Racingで一番印象的なのは、Boosterという素晴らしいファクトリーがあること。他のチームでは室温40℃で作業することもあるので、エアコン完備の環境はメカニックとして非常に働きやすいです。

母体が岡山トヨペットで、メカニックは皆ディーラーで基本的な整備技術を身につけているため、レース特有の部分だけ教えれば問題ない。実際、2025年はピット作業が初めてというメンバーもいましたが、大きなミスなく終えることができました。

今オフシーズンはSUPER GTのRCF GT3は新しいボディを導入する大作業がありましたが、それも勝利のためです。結果が残せたら、メカニック冥利に尽きますね」

マシンの足元を支えるタイヤ管理のプロフェッショナル

メカニック 小橋健一郎

岡山県浅口市出身の小橋健一郎は、岡山トヨペットのディーラーメカニックとして19年のキャリアを持つ。

大学で福祉を学んでいたが、クルマへの情熱から自動車整備の専門学校へ進路を変更。岡山トヨペットに就職後、車検・点検から始まり、最終的には本社サービス本部で法令関係の方針策定などを担当した。

その時、下江に誘われ2024年6月にK-tunes Racingへ加入。現在はSUPER GTのRCF GT3のタイヤ管理と、岡山チャレンジカップレースを走る4台のGR 86-N1のメンテナンスを担当している。

「K-tunes Racingでは日々何をするか自ら考えて予定を立てる。そこが、ディーラー時代と大きく違います。タイヤ管理では、タイヤの温度管理が重要な仕事ですが、温度を高めるべく陽光の当たり方に応じて置く場所や角度を変えたり、曇りの日はテント内に収めたり、常に自然環境を意識しています。

また、N1-86はジェントルマンドライバーの方々にモータースポーツを楽しんでもらうのがコンセプトなので、何の不具合も出ずにレースに打ち込んでもらえるクルマ作りを心がけています。そんな思いから、例えば今オフシーズは、予防整備としてギアボックスをオーバーホールしました。若いメカニックが入ってきた時に、この思いや経験をどれだけ伝えられるかが、これからの自分の役割だと考えています」

幼少期の憧れの世界で活躍

メカニック 各務宏幸

幼少期からSUPER GTの岡山戦を見て育った各務宏幸。1988年に岡山に生まれた彼は、レースへの憧れを胸にトヨタ神戸整備専門学校(当時)で学び、岡山トヨペットへ入社した。

一般車の整備士として経験を積む傍ら、趣味でドリフトを楽しむ日々を送っていたが、2024年6月、K-tunes Racingへ転籍。現在はIPSの車両メンテナンスをメインで担当し、レース現場ではSUPER GT、GT WCAにもメカニックとして参加している。

「市販車の整備からレーシングメカニックへ移って、別世界だと感じました。異業種に転職したぐらいの変化です。レーシングカーには修理書がなく、構造を見て判断しながら作業を進めていく。ただ、一般車での経験や、ディーラーで学んだ注意点は確実に役立っています。

2025年は、末長オーナーがジェントルマンクラスで2回優勝したことが一番印象深い出来事でした。末長オーナーは年々速くなっていますが、自分が整備してきたマシンで結果が出たのは本当に嬉しかった。

2026年の目標は明確です。インタープロトでシリーズチャンピオンを獲りたい。トラブルがなく、安定して優勝を狙える車両に仕上げたいと思っています」

チーム代表、工場長、そしてマシンを支えるメカニックたち──しかし、レースを支えるプロフェッショナルはまだいる。後編では、引き続きメカニックから、データを駆使するエンジニア、現場を支えるマネージャー、そしてチームを率いるオーナーまで、K-tunes Racingの多彩な顔ぶれを紹介する。

Share!