スピードをストリートアートに昇華する<br>相澤陽介が再解釈するK-tunes Racingの「SPEED ART」

スピードをストリートアートに昇華する
相澤陽介が再解釈するK-tunes Racingの「SPEED ART」

by Koichi Yamaguchi/ July 17, 2026

2026年SUPER GTを戦うK-tunes RCF GT3が纏う、新たなレッドとブラックのグラフィック。昨シーズンに引き続きデザインディレクションを手掛けた相澤陽介さんに、デザインに込めた想いを聞いた。

2シーズン目を迎えた「SPEED ART」

K-tunes Racingが掲げるチームコンセプト「SPEED ART」も、今シーズンで2シーズン目を迎える。昨季よりモータースポーツを一つの総合芸術として捉える姿勢を打ち出してきたチームは今季、マシングラフィックでこれまでとは全く異なる表現に挑んだ。

そのクリエイティブディレクションを、昨年に続き手掛けたのは、日本を代表する世界的デザイナー、相澤陽介さんである。

この春、長年率いてきたファッションブランドのデザイナー職を退任し、ファッション、スポーツ、アウトドア、プロダクト、空間、コミュニケーションを横断する新たなデザインファームを立ち上げるなど、活動の幅をさらに広げている。

そんな相澤さんが、今シーズンのK-tunes RCF GT3に纏わせたのは、これまでのモノトーンから一転、レッドを基調とした力強いグラフィックだった。

ストリートアートという新たな地平

昨シーズン、相澤さんは「SPEED ART」の「ART」を、速さそのものが生み出す躍動感として表現した。2シーズン目となる今回、相澤さんはこの言葉に、これまでとは異なる意味を見出している。

「今シーズンは、『SPEED ART』における“ART”を、グラフィティのようなストリートアートとして解釈しました」

学生時代に現代美術を学んだ相澤さんにとって、既成概念や正攻法にとらわれない表現には、昔から強く惹かれるものがあると振り返る。中でも特に印象に残っているのが、ベルリンの壁だ。コンクリートという無機質なキャンバスに、自由な発想やメッセージが重ねられていく。そのエネルギーに、大きな影響を受けてきたと話す。

今シーズン、相澤さんが表現したいと考えたのは、スピードが生み出す「衝動」や「感情」だった。レッドを基調に、力強く大胆なグラフィックを幾重にも重ね、マシンそのものをストリートアートの作品へと昇華させることを目指した。

「同じ『SPEED ART』というコンセプトでも、今シーズンはスピードを単なる速さではなく、自由な表現や反骨精神、そして見る人の感情を動かすアートとして再解釈したデザインに仕上げました」

レッド&ブラックに込めた想い

今回のデザインの出発点となったのは、「従来のモノトーンから、大きくイメージを刷新したい」とのチームからの相談だった。

「『強いインパクトを残すべく、テーマカラーをレッドとブラックにしたいという要望がありました」

興味深いのは、このレッドとブラックという配色が、相澤さんが長年、取締役兼CCOを務める北海道コンサドーレ札幌のクラブカラーでもあることだ。数多くのデザインを手掛けてきた配色だからこそ、単に色を置くのではなく、その色が持つ力や意味そのものをどう表現するかに向き合ったという。

「SPEED ART」というコンセプトと、レッド&ブラックが持つ力強さや情熱をどう融合させるか。相澤さんはまず、テーマとコンセプトを徹底的に練り上げることから、今回のデザインをスタートさせた。

チームとも「記憶に残る存在にしたい」という想いを共有しながら、幾度もデザインをブラッシュアップしていった。

ブリコラージュという方法論

「SPEED ART」というコンセプトをデザインに落とし込むにあたり、相澤さんが用いたのが「ブリコラージュ」である。異なる素材や要素を組み合わせ、新しい価値や世界観を生み出す表現手法だ。

「今回のデザインでも、スプレーの飛沫やペイントのレイヤー、タイポグラフィ、ストリートアートの要素などを幾層にも重ね合わせ、一つのグラフィックとして再構築しています」

そうして相澤さんが目指したのは、レースが持つエネルギーや衝動、そして見る人の感情を動かす力を、一つのアートとして表現することだった。

「マシン全体をキャンバスに見立て、走ることで完成する作品のような存在を目指しています」

そのイメージの源泉となったのも、やはりベルリンの壁に残されたストリートアートのエネルギーだ。

「さまざまな人が異なる手法や想いを重ねながら、一つの壁を巨大なキャンバスへと変えていく。その自由さや力強さ、そして時間とともに積み重なっていく表現に強く惹かれました。今回はその空気感を、レースマシンというキャンバスの上で表現したいと考えました」

平面と立体のはざまで

ストリートアートが本来持つ偶発性や勢いを、精緻な工業製品であるレーシングマシンにどう定着させるか。そこには大きな苦労があったという。

「コラージュという表現手法を採用しているため、左右非対称で、まるでハンドペイントで描いたような自然な表情を目指しました。その分、実際にマシンへ施工する際のシートデータの作成は非常に難しく、パーツごとの繋ぎ目や面の連続性をどう見せるかにはかなり苦労しました」

平面のグラフィックとして成立していても、立体的なマシンのボディへ貼り込んだ瞬間に印象が変わってしまうことがある。相澤さんは幾度もシミュレーションと調整を重ね、平面のグラフィックが放つエネルギーと、実車として見たときの迫力を両立させることに力を尽くした。

「最終的には、ストリートアート特有の偶発性や勢いを失わず、それでいて一台のレーシングマシンとして美しくまとまるバランスを追求することができました」

モータースポーツという名の総合芸術

数シーズンにわたりK-tunes Racingのマシンデザインを手掛けてきた相澤さんにとって、今シーズンの作品はどのような位置づけになるのか。

「今回のデザインは、これまで手掛けてきたK-tunes Racingのマシンの中でも、最もエネルギーを感じられる作品に仕上げられたと思っています。単にグラフィックとして完成度を高めるのではなく、レースが持つ熱量や緊張感、そしてスピードが生み出す衝動そのものを可視化することを目指しました」

相澤さんは、モータースポーツという競技そのものに強く惹かれているという。

「私は、モータースポーツには他の競技にはない圧倒的な物理的エネルギーがあると考えています。エンジンの振動やタイヤが路面を捉える力、風を切るスピード、そしてドライバーやチームが極限の状態で戦う熱量。それらをデザインとして表現することに大きな意味があると思っています」

デザインとは、マシンを美しく見せるための装いにとどまらず、ドライバーやチームの気持ちを高め、観る人の想像力をかき立てる力を持つものだ、と語る相澤さん。

「マシンがサーキットを走ることで初めて作品が完成し、そのエネルギーを多くの人に感じてもらえたら、デザイナーとしてこれ以上嬉しいことはありません」

相澤さんがRCF GT3に描いたレッドとブラックの「SPEED ART」は、ストリートアートのエネルギーをそのままにまとった一台に仕上がった。その姿を、ぜひサーキットで確かめてほしい。

Yosuke Aizawa
相澤陽介 | Yosuke Aizawa
1977年生まれ。多摩美術大学染織デザイン科を卒業後、コム デ ギャルソンを経て、2006年にWhite Mountaineeringを設立。2026年のブランド創立20周年を機にデザイナーを退任し、デザインスタジオ「stactis studio」を始動。北海道コンサドーレ札幌取締役CCO、多摩美術大学客員教授を務めるほか、北軽沢のNOT A HOTELのディレクションなど幅広い分野で活動している。

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